第14章 疑惑と嫉妬
「やっほー、皐月。元気してた?」
「っ…、紫さん……?」
とある日曜日。
いつものように差し入れをして施設を出ると、そこには見覚えのある女性が立っていた。
俺に『女性』というものを教えてくれた人…
俺の"初めて"の人…
「ほら、皐月も1杯くらい飲みなよ」
「…俺、未成年ですから」
「まったく…相変わらず真面目なんだから」
そう言って紫さんはビールを呷る。
彼女に誘われた俺は、半ば強引に居酒屋へ連れて来られていた。
(強引なところはあの頃と変わってないな…)
彼女と出会ったのは2年前…俺がまだ17の時。
当時高校に行っていなかった俺は、施設を出た後毎日バイト三昧で。
人生に何の面白味も感じられず、興味本位で繁華街を出入りする事もしばしばあった。
…そんな時に出会ったのが彼女…紫さんだ。
彼女は俺より5つ歳上で、俺に色々な事を教えてくれた。
…それこそセックスの手解きも。
今だったら考えられないが…あの頃の俺は少し荒れていて、"そういう事"にも興味がある年頃だったのだ。
お互い恋愛感情があった訳じゃない。
結局紫さんとは3ヶ月程そんな関係を続けていたが、地方で就職が決まったという彼女は引っ越し、それ以来一度も連絡を取っていなかった。
「皐月、今は何してるの?」
「今は大学に通ってますよ」
「へぇ~、すごい。まぁあんたは元々頭良かったしね」
「…紫さんは?引っ越したんじゃなかったんですか?」
「うん、相変わらず向こうで働いてるよ。ちょっと実家に用があって、この週末帰省してたの」
「…そうですか」
施設の前にいたのは偶然だったのだろうか?
それとも…
俺の思っていた事が伝わったのか、彼女が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「久しぶりに帰ってきたら…何となく皐月の顔思い出しちゃって」
「………」
「まさかホントに会えるとは思わなかったんだけど」
「俺に…何か用でも?」
「何よ、その冷たい言い方。もう2年前とは言え…あんなに激しく体を重ね合った仲なのに」
そう言って俺の膝の上に手を乗せてくる彼女。
俺はそれをやんわり払い除けた。
「…もう昔の事です」
「ふーん…。彼女でも出来た?」
「…ええ」
「そうなんだ…どんな子なの?」
「……。俺には勿体ないくらい素敵な人です」
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