第12章 花火よりキミ
「すみません…俺……」
私を抱き締めたままの皐月くんが耳元でそう謝ってくる。
その声はどこか切羽詰まったもので…
「ぁっ…、」
今度は壁に押し付けられ、そこに両腕を縫い付けられた。
私を見下ろす彼の瞳は熱っぽく何か言いたげだ。
「あの…、皐月くん……」
「本当は俺…ずっと我慢してました」
「…え……?」
「今日桜子さんの浴衣姿を見た時からずっと……桜子さんが欲しくて堪らなかったんです」
「っ…」
ストレートにそう言ってくる彼。
私が言葉を詰まらせていると、彼が顔を近付けてくる。
…抵抗する間も無かった。
いつもとは違い、強引に奪われた唇。
初めから入り込んできた舌が私のものに絡んできて…
「んっ、は…っ…」
歯列をなぞられ、上顎を舐められ…口内を隈無く侵してくる彼に、私の体からは徐々に力が抜けていった。
「ぁっ…」
力の入らなくなった私の体を彼が横抱きにする。
そしてその足は部屋の奥のベッドに向かい…
「皐月くっ…」
そっとその上に下ろされた体。
間髪入れず覆い被さってくる彼に、私はいよいよ本気で慌てた。
「ま、待って…!」
「…すみません……俺…待てないです」
「……、」
「こんながっついてみっともないって解ってますけど……桜子さんとシたい」
「っ…」
それが何を意味するかは容易に理解出来る。
私はすぐに答えを出す事が出来なかったが、彼は構わず浴衣の帯を外しに掛かった。
「ちょ、ちょっと待っ…」
「…嫌ですか?」
「…え……?」
「俺とは…出来ませんか…?」
「……、」
眉を下げてそう言ってくる彼に胸が痛む。
彼をここまで追い詰めてしまったのは、他でもない私だ。
彼とするのが嫌な訳じゃない。
ただ、私はまだ心の整理が出来ていないだけで…
「…あの……、皐月くんは……本当にいいの…?」
「…え?」
「本当に…私でいいの…?」
私はまだリアンくんと皐月くんの間で揺れている。
こんな私でいいのかと今更聞くのはおかしい事かもしれないが、それでも聞かずにはいられなかった。
「俺は…桜子さんじゃなきゃ嫌です」
「……、」
「確かに今の俺たちの関係は普通じゃないかもしれないけど……それを承知の上で俺はあなたの恋人になったんですから」
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