第12章 花火よりキミ
(わぁ…、流石にすごい人……)
今日は年に一度の花火大会。
1週間前皐月くんに誘われた私は、彼と1時間前に待ち合わせをし会場に着いたところだった。
そこは予想通り人でごった返していて…
「桜子さん…はぐれないように手を繋いでもいいですか?」
「……、」
照れながらもこくりと頷き、彼と手を繋いで歩く。
今日は慣れない浴衣を着ていたので歩くペースも遅かったが、皐月くんは私に合わせてゆっくり歩いてくれた。
「あっ…あそこなら人少なそうですね」
穴場を見つけた私たちはそこに腰を下ろし、花火が打ち上がるのを待つ。
ふと手を繋いだままの彼がこちらに視線を向けてきた。
「今日の桜子さん…一段と綺麗です」
「っ…、そんな事…」
「気付いてました?人混みの中で桜子さんに見とれてた人…何人もいたんですよ?」
「……、」
「あまりイイ気分じゃなかったんですけど…そんな桜子さんの恋人が俺なんだって思うと、少しだけ優越感に浸れました」
「皐月くん…」
「あっ…花火始まるみたいですね」
彼がそう言った次の瞬間、1発目の花火が打ち上げられた。
赤く華やかな大輪の花。
それを皮切りに次々と打ち上げられ、私も皐月くんもそれに目を奪われる。
(…綺麗……)
「桜子さん、首疲れませんか?」
「ふふっ、ちょっとだけね」
「じゃあ…俺に背中預けてもらっていいですよ」
「え…?」
繋いでいた手を放した彼が私の背後に回った。
後ろから体を引き寄せられた私は、自然と彼に体を預ける体勢になる。
「これなら少しは楽でしょう?」
「う、うん…」
確かに楽ではあるが、この体勢だとどうしても彼の顔が近くにあって少し恥ずかしい。
しかも彼は花火も見ずにこちらを見下ろしている。
「皐月くん…ちゃんと花火見ないと……」
「…花火より桜子さんの方が綺麗」
「っ…」
歯の浮くような台詞を平気で言ってくる彼。
そしてそのまま、私の目元あたりにキスをしてくる。
結局その後はもう、花火どころではなくなってしまった…
「っ…、皐月くん?」
花火大会からの帰り道…
「もう少し一緒にいたい」と言う皐月くんに頷いた私は彼を自宅へ招いたのだが、何の前触れもなく玄関先で背後から抱き締められた。
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