第7章 GW合宿
私の頭の中で警鐘が鳴る。
この笑顔は絶対に危険だと訴えてくる。
目の前の男はどうにもその辺には鈍いらしい。
「氷室じゃん。何ってナニしようとしてたとこだけど」
「へぇ。心底嫌そうな顔してる女の子相手に物好きだね。
手ぐらい放してあげなよ」
絶対に今のでキレたと思う。今なんかプッツンとかいう音がしたって。
絶対に危ないって。私も目の前にいる男も。お願いだからお前はいいから私の手を離せ。
「っオイ、暴れんな…!」
「嫌だから暴れるに決まってるじゃない、頭わるいの?」
「春香はそういう女の子だよ。少なくとも君じゃ無理だ」
その言葉と共にドンドン笑顔が真っ黒になって行く。
ここまで来てようやく手を離されると彼は逃げるように去って行った。
「春香、手首見せて」
「え…別に、なんとも」
「あるだろ。ほら、真っ赤になってる」
勢いよく手を取られてそのまま真っ赤になった手首を何度か撫でられた。
「別に見た目ほど痛くはないわよ」
「…っの馬鹿!!」
反射的に肩が跳ねた。怒鳴られたのなんていつ振りだろうか。
「自分の見た目の自覚はあるだろ。なんで明らかに人のいない場所で2人きりになんてなった」
ごもっともで。思わず俯いてしまう。
「だって、」
「こうなるのが想定外なわけでもないだろ」
「そう、だけど、」
「…ごめん、怒鳴って。でも、春香は女の子だから。自分のことはちゃんと大事にしてよ」
「…ごめん、なさい」
「うん。分かればいいよ」
その声音に安心して顔をあげると怖い笑顔があった。
「で、彼のクラスは?同じ学科だよね?」
「…ごめん、興味ないから」
「そう、ならいいんだけど…でもとりあえず、合宿中は一人にならないように」
「え、えぇ…分かった。あの、辰也」
「うん?」
「来てくれて、ありがとう」
好きでもないし知らない人にあぁいった事をされるのは何度もある。
それでも、恐怖と言うものに人が慣れることはきっと早々ないんだろう。