第13章 弄月
本当に蛍は素直じゃない。
謝罪や感謝くらいそのまま受け取ればいいのに。
「あの…蛍…。」
しまった…。
そうだよ!こんな時間…医務室に人が居るわけないじゃん。
なんでもっと早く気付かなかったんだろ。
蛍に…こんなに重たい私を待たせたまま無駄足を踏ませてしまった。。。
焦る私にはお構いなしの様子で、蛍が無人の医務室にはいる。
「いいんだよ。これで。鍵は開いてるわけだしさ。しばらく中で休んで行きなよ。戻ったらまた無理にでも働いちゃうんだから。」
ストンっとベッドの上に降ろされる。
少し…離れるのが名残惜しいと思ってしまう。
「でも…こんな所に1人で居るのは寂しいし、部屋に…。」
「ダメだよ。部屋に戻っても他のマネージャーさん達に合わせてお喋りしちゃって、休めないでしょ。それに…僕が和奏の事置いて行くわけないでしょ。」
部屋の隅から椅子を取ってきて座る蛍の様子に、
本気で心配してくれているんだとわかった。
「うん…。あの…ありがとう。」
「別に、お礼言われるような事した覚えないけど。」
本当に…素直じゃないなぁ。
何だか、そんな蛍の様子が懐かしくて、嬉しくて、
思わず笑ってしまう。
「もう休みなよ。」
蛍のすらっとした指が私の前髪をサラサラと撫でる。
昔から、私が寝付けずにいるとこうやって撫でてくれた。
飛雄に見つかったら…怒るだろうか?
一瞬、そう考えたが、懐かしさと蛍の手のひらの温かさに負けた。
私、悪い女だ。。。
「…、寝るまで、そうしててくれる?」
「…。言われなくても、そのつもりだよ。」
ほら、本当に悪い女だ。
蛍の言葉が、こんなにも嬉しい。