第12章 弦月
安心したようにすっと瞳を閉じる和奏。
そうだった。
和奏と2人でいる空間は、こんなにも温かくて居心地が良かったんだ。
たとえ、肌を重ね合わせていなくても。
なんだか、ぐちゃぐちゃに絡まった心が解けて行くのを感じる。
和奏が好き。
改めて考えると、こんなに単純な事なのに。
なんで、こんなに複雑な事になっているんだろう。
「ん…。」
頭を撫でられているせいか、和奏がくすぐったそうに身をよじる。
ふと、和奏の一つにまとめ上げられた後ろ髪を見る。
枕に当たって、痛いんじゃないだろうか…。
解いてあげなくては…と、椅子から立ち上がり、
和奏の後頭部側へ回り込む。
「んっ…」
今度は身をよじったような軽い反応じゃないから、
起こしてしまったんだろう。
「ごめん。起こしちゃったね。」
「け…い…?」
解かれたての頭をひねって、こちらを振り向こうとする和奏。
その時、たゆんだTシャツの襟元から見えてしまったんだ。
和奏の体に残された、独占欲の象徴のような無数の紅い跡を。
スッと体から熱が引いていくのを感じた。
「…なんだ…そういう事か。」
「蛍…?何か言った…?」
和奏がしっりと覚醒したのか、僕を見上げてくる。
「普段から体調管理に気をつけてる和奏が、合宿のタイミングで体調崩すなんて、おかしいなとは思ってたんだ。」
「ごめん…なんの話ししてるのか…わからない…。」
胸元の布団をかきあげて、和奏はベッドの上に上半身を起こす。
僕は…何を言うつもりなんだろう。
止まれ。止まれ。と思うけど、心と頭は冷静でないと連動しないのかもしれない。
「彼氏とヤリ過ぎて、疲れて…体調不良?可笑しすぎて笑えないよ。それとも和奏は淫乱だから、王様のじゃ物足りなくて、何回も頑張っちゃったとか?」
和奏が信じられないような物を見る目でこちらをみる。
僕だって…こんな状況信じたくない。
「王様で満足出来ないなら、言ってくれればいつでも抱いてあげたのに。」
このままだと嫌われるとわかっているのに、
そんな事で止まれるなら、最初からこうなってはいない。
目に涙を溜める和奏の後頭部を押さえて、無理矢理唇を貪った。