第12章 弦月
「あっ…うん。じゃあ、私は先に行って皆さんのお食事の用意してますね。」
ペコっと頭を下げて、和奏が体育館を後にしようとしたが、その場で派手にコケる。
「ちょ…何やってんのさ?大丈夫?」
木兎さんが凄い勢いでこちらに来ているけど、
距離の原理で僕の方が先に和奏に駆け寄る。
起きない和奏にザワっとした感覚を覚えて、すぐ傍にしゃがみ込み、上半身を引き上げる。
「和奏?」
そうだ、和奏は昨晩宮城を出発した時から体調が悪いんだ。
何だか見たこともないくらい青白い顔をしている。
気を…失ってる?
返事がない事を確認して、そのまま横抱きに持ち上げる。
「医務室に連れて行きます。」
振り返りもせずにそれだけ言って、体育館を飛び出した。
「ん…。と…え?蛍?」
僕が走った振動で気付いたのだろうか?
和奏がすぐに目を覚ました事にホッとする。
それにしても…今、王様の名前呼ぼうとしてたよね…?
久しぶりに和奏に名前を呼ばれたのに、今のは全然嬉しくない。
「あれ?私…。え?何でお姫様抱っこ!?下ろして!下りる!!」
バタバタともがく和奏。
ちょ…こっちは全国5本の指に入るエースのスパイクを何本も受けた腕なんだけど…少しは労わりなよ。
「はぁ…。大人しくしてて。和奏はさっき体育館で気を失って倒れたんだよ。今は医務室に向かってるところ。昨日から体調悪いくせに無理するからだよ。」
「…迷惑かけてごめんね、蛍。」
上目遣いやめなよ。
可愛すぎるんだからさ。
「別に。僕は練習で疲れてるんだから、悪いと思うなら、大人しく運ばれてなよ。」