第12章 弦月
「ストレートしめろ!」
「指先まで力抜くな。」
「しゃー!俺、絶好調!」
「上じゃなくて前に出せよ。」
何本くらい跳んだだろう。
何も考えないって言うのはそんなに簡単な作業じゃないって初めて気付いた。
それでも、何本も何十本も強豪のエースのスパイクって言うのを受け止めてると、疲労も加わって、
難しい事を考えるのは放棄したい気分になる。
「おっ、今のはなかなか…。次止めるぞ!」
「まだまだ、俺は止められないー!」
結局、どこをどう取り除いても、捨て去っても、
どういう表現をしてみたって、一つだけ変わらない事がある。
「ドシャット!!」
和奏が好きでたまらないって事。
「あー、すげぇ悔しいー!赤葦、もう一本!」
「まだ打つんですか…?」
イライラしてる原因も、不調の原因も…結局はそういう事。
苦しい思いをしないために執着しなかったのに、
執着しなかったから、こんなに苦しいなんて…本末転倒だ。
「最後のは、なかなか良かったんじゃない?なんか…吹っ切れたか?」
黒尾さんがニッと笑う。
吹っ切れた…けど、
だからと言ってどうしたらいいのかは、検討もつかない。
「あの…そろそろ切り上げないと、食堂しまっちゃいますよ??」
凄いタイミングだね。
ヒョコっと体育館の入り口で様子を伺いながら入ってきた和奏。
僕を見つけて、少し驚いた顔をしてる。
僕がこんな時間まで自主練してるのが意外なのだろう。
なんだか、駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られる…
が、木兎さんに先越された。
「皐月ちゃん!俺のこと呼びに来てくれたの?なんだったら、今日はこのまま俺の布団で寝る?」
しかも、聞き捨てならないセクハラ発言をしている。
「木兎さん。大部屋なんで、流石にまずいです。」
赤葦さんのツッコみもズレている。
はぁ…。
和奏に何秒触ってるつもりだ…。
「片付けたら、すぐに行くよ。木兎さんも…ですよ。和奏は先に戻ってなよ。」
和奏から木兎さんをひっぺ剥がす。
ツッキーのケチ!なんて騒いでいるけど…無視だ。