第12章 弦月
「木兎に強制連行されてきたじゃ、恩売って損した。」
第三体育館では黒尾さんが待ち構えていた。
「別に木兎さんが引っ張って来なくても来るつもりでしたよ。」
約束を破った後の事を考えると、素直に従うのが得策だろうと思っていた。
「そうなの?でも、練習するっつっても、今日のツッキーのブロックじゃあなぁ…。何でそんなにイライラしてんの?」
答えなんて聞くまでもないけどねぇと黒尾さんの顔に書いてある。
本当に侮れない人だ。
「いや…べつに。」
「まぁ、いいけどね。でも、冷静でクレバーなプレーがツッキーの持ち味だろ?イライラしてたら台無しですよ。」
プレーにまでイライラが出てるなんて、重症だ。
相手チームの人がわかってるくらいだから、王様だって気付いてるんだろう。
「だから、とにかく跳べばいいんだよ!頭の中空っぽになるくらい!よーし!赤葦ー、トス上げてくれー!」
うずうずと僕達の会話を聞いてきた木兎さんが、
我慢の限界という様子で声をあげた。
…赤葦さん、いつの間に来たんだろ。
「木兎のアイディアは極端だけど、一理あるな。ツッキーは考え過ぎなんだよ。たまには頭の中空っぽにしてみたら?」
「黒尾くーん!ツッキー!早く早くー!」
コートの中で呼ぶ木兎さんに答えるように、
黒尾さんが歩いていく。
頭の中…からっぽに…。
木兎さんと、黒尾さんの考えを心で反復した。