第10章 新月
ピンポーンと玄関からチャイムが響く。
あっ、影山くん?
ドアに手を掛けようとしたところで、外から声が掛かる。
「和奏、いるんだろ?開けて。」
蛍だ!
会えないと伝えたけど、最後までメッセージを返さなかったから来てしまったんだろうか。
声を聞いただけで、涙が出た。
扉の向こうに蛍がいる。
でも…影山くんもこちらに向かっている。
もし、私と蛍が会っているところを見たら…影山くんはどれだけ悲しい気持ちになるだろう。。。
ゆっくりと、扉の横に付属しているチェーンロックに手を伸ばし、扉を繋ぐ。
蛍は合鍵を持ってる。
きっと鍵を開けて入って来る。
会えない。
けど…どうしても会いたい。
自己満足だとはわかっているが、伝えないといけない事もある。
せめて、扉の隙間越しにでも…会いたい。
そして、伝えたい。
蛍が鍵を解除して、扉を開けた。
数センチ開いた扉はチェーンに繋ぎとめられる。
「そんなに…僕と会いたくないの?王様に…彼氏にそうしろって言われたの?」
数センチの隙間から、信じられない物を見るような表情の蛍が見える。
蛍だ…。
チェーンロックなんて外してしまって蛍の胸に飛び込みたい。
でも、それをしたら、同じ過ちの繰り返しだとわかってる。
私が1人で勝手に守って来た約束を、
ちゃんと私自身の手で終わらせる時なんだ。
「蛍…。蛍は覚えてないかもしれないけど…いつでも隣に居るって…約束したの。小さい頃に。守れなくて、ごめんなさい。」
大きくなったら結婚しようなんて、子供の頃の約束を、捨てきれずに1人で勝手に守り続けてた。
蛍にとっては重荷だったのかな…?
ふぅー。っと蛍が長い息を吐いたのがわかった。