第10章 新月
シャワーで更にスッキリと目覚め、部屋に戻るとちょうど携帯が鳴っていた。
[今から向かうから。]
影山くんからメッセージだ。
そういえば、家を出る時に連絡くれると言っていた。
なんて返そう。
待ってる。…いや恥ずかしい。
はい。…素っ気なさすぎる?
うーん。と少ない語彙力を振り絞っていると、手元で携帯が震えだした。
[月島 蛍]
蛍からの着信だ。
昨日の電話は影山くんが出てしまって、蛍とは直接話していない。
数時間会っていないだけなのに、昨晩の事が遠い昔の事のようで…蛍と話したい。
そういう衝動に駆られる。
「距離置くんじゃなかったのかよ?もう2人で会わないんだろ?違うのかよ?」
昨晩の影山くんの言葉を思い出し、通話ボタンに伸びた指が一瞬躊躇する。
そのタイミングで電話がきれた。
[和奏、ちゃんと話したいんだ。今、迎えに向かってるから。]
間を空けずに蛍からのメッセージが届く。
私も…話したい。会いたい。でも…。
[ごめん。会えない。」
あんなに真剣に向き合ってくれる影山くんを…どうしても裏切れない。
[僕には会えない理由とか、わからないんだけど。そこに王様がいるの?]
蛍は、私と影山くんが朝まで一緒に居たと思ってるんだ。
今も一緒に居ると。
そして…体の関係を持ったと思ってる。
違うの…って弁解したい気持ちと、
勘違いしてくれてるなら、それでもいい。という気持ち。
今、蛍と向き合うと、心が真っ二つに裂けてしまいそうだ。
携帯の電源ボタンを押して、画面の黒くなったケータイを机の上に置いた。