第10章 新月
「もう、泣き止んだか?」
私の動く気配を感じて、影山くんが腕を緩める。
「ごめん。私…今日、泣きすぎだよね。」
急に恥ずかしくなって、影山くんの身体を軽く押し返す。
「朝まで…一緒に居てもいいか?」
きっと影山くんはわかってるんだ。
1人になったら、私が朝まででも泣き続ける事。
「でも、明日も朝練あるでしょ?それに…。」
私も女子高生になったのだ。
男女が2人で朝まで過ごすと言うのがどう言う事かはわかっている。
彼氏彼女になったと言っても、影山くんと今すぐどうこうと言うのは考えられない。
ふいに先程までの蛍との行為が頭をよぎる。
私…本当に何考えてるんだろ。。。最低だ。
影山くんは言い淀んだ私の意図したところがわかったようで、少しムッとした。
「皐月が嫌がる事なんかするか、ボゲェ。別に今日だけじゃねぇよ。皐月が俺の事、好きだって思ってくれるまで、手なんか出すはずないだろ。」
相変わらず真っ直ぐ降り注ぐ影山くんの言葉。
何だか…くすぐったい。
「俺、その辺の床で寝るし。だから、安心しろ。とりあえず…手当てさせろ。」
「手当て…?」
何のことかわからず見上げると、ガッと腕を掴まれる。
「コレ。擦り切れてるから。跡が残ったら大変だろ。」
蛍が手首を縛った跡だ。
「いいよ。こんなの…ほっとけば治るよ。」
影山くんだって、こんな物見たくもないだろう。
「俺が…一刻も早く消えて欲しいんだよ。救急箱とかないのか?」
影山くんの言葉はいちいちくすぐったい。
こんなの…初めてだ。
ぼんやりと救急箱の場所を告げると、それを片手に戻ってきた影山くんに座るように促される。
「ったく。こんなになってんじゃねぇか。もう自分が傷付くような事はするなよ。ボゲェ。」
手当てをしてくれながら、そう言う影山くん。
いつも日向くん達に言ってるのとは、少し違う…なんだか、温かみのあるボゲェって口癖。
これも、なんだかくすぐったいな。
影山くんが心配そうに手首の跡を眺めるている。
くすぐったさの原因がわかった気がした。
自惚れてるかもしれないが…
影山くんは本当に私の事が好きなんだ。
今までの影山くんの温かくて、くすぐったい言葉達が、全て好きだと告げている。