第9章 有明月
「和奏いるんだろ?開けて。」
普段は鳴らさないインターホンを押したのは、
勝手に戸を開けた時に、和奏と王様が…なんて、
見たくもないものを見ない為の防衛本能だったのかもしれない。
気配はあるのに、返事のない和奏の様子に深いため息をつき、手元の合鍵を見つめる。
僕はいつだって和奏の意思は無視してきたな。
勝手に家に上がり込んで、
勝手に周りの男どもを牽制して、
勝手に嫉妬して、
勝手に抱いた。
和奏は何を望んで居たんだろう。
今まで和奏の考えてる事なんて、わざと知らないふりして来たのに。
今なら和奏の望みなら、何でも叶えられる気がする。
本当…自分勝手だな。
合鍵を鍵穴に差し込み、施錠を解除する。
ガシャッと、馴染みのない音と振動が右手に伝わる。
チェーンロックか。
こんな当たり前の装備が和奏の家に備わったいたなんて、今の今まで考えもしなかった。
いつだって、この合鍵一つで和奏に会えたのに。
薄く開いた扉のすぐに内側に和奏が居るのがみえる。
ずいぶん懐かしく感じる。
「そんなに…僕と会いたくないの?王様に…彼氏にそうしろって言われたの?」
状況的に全部冗談だったなんて、奇跡…ないだろう。
口に出すと、今の状況が突然しっくりと来る。
和奏には彼氏が出来て、僕はフラれたのか。
まだ、自分の気持ちを伝えてもないけど。