第9章 有明月
扉の内側で、和奏が泣いている。
こんなチェーンロックなんて引きちぎって、
今すぐ抱きしめたい衝動に駆られる。
泣かないで…なんて言う資格、
今まで散々泣かせてきた僕にあるのだろうか。
「蛍…。蛍は覚えてないかもしれないけど…いつでも隣に居るって…約束したの。小さい頃に。守れなくて、ごめんなさい。」
和奏も…覚えてたんだね。
鮮明にその頃の様子が思い出せる。
「蛍の隣には、いつも和奏がいるんだから、結婚して当たり前でしょ…?」
僕達の当たり前が目の前で終わろうとしている。
「…。王様と本当に付き合うの?」
あんなバレーボールの事しか頭にない奴が、和奏の事大切に出来るはずがない。
「う…ん。影山くん、凄く優しいから…きっと好きになれると思う。」
まだ好きじゃないなら…、
やめときなよ。
僕の方が和奏の事、好きだよ。
そう言おうとして、言葉を飲み込んだ。
和奏の事、泣かせてばっかりの自分勝手な僕に…そんな事言う資格はない。
王様といる事が和奏の望みなの…?
それで、幸せに…笑顔になれるの…?
「ふーん。和奏と王様ねぇ。僕には上手く行くとは思えないけど…勝手にしたら。上手くいかなくて、泣き言言いたくなったら、聞いてあげてもいいよ。」
幸せになって。
いや…僕の隣以外では笑わないで。
足元から崩れそうになりながら、必死に強がりを吐く。
どうか和奏には、これが強がりだってバレないで。
こんな、カッコ悪い僕には気付かないで。
「じゃあ僕、先に学校行くから。」
本当に崩れ落ちる前に、足早に現実から逃げ出した。