第9章 有明月
家まで歩いている間に、浮かんでくる嫌な妄想を振り払うかのように和奏に電話を掛ける。
コール音が鳴り響くばっかりで、繋がることのない電話に、昨日の王様の言葉がよぎる。
「皐月がお前とは会いたくないって言ってんだよ。」
王様が和奏から無理やり携帯を奪って、適当な事を言ってるんじゃないか。
そんな希望的観測を夜の間中繰り返していた。
でも…。
あれは…本当の事だったんだろうか。
繋がらない携帯に目線をやる。
[和奏、ちゃんと話したいんだ。今、迎えに向かってるから。]
電話が繋がらないなら…とメッセージを送る。
物の数秒でつく既読マーク。
何だよ。着信だって気付いてるんだろ。
何で…出ないんだよ。
それでも、まだ期待してる自分を自嘲する。
もう答えなんてほとんど出てるのに、
全部冗談だよ。驚いた?って、和奏がヘラヘラ笑いながら言うのを想像する自分。
本当に和奏の事になるとバカだ。
[ブッ]と短い振動と供にメッセージの受診を伝える。
[ごめん。会えない。」
そんな短い言葉で、
知りたいことは何一つ教えてくれないのに、
僕を絶望に突き落とすんだね。
[僕には会えない理由とか、わからないんだけど。そこに王様がいるの?]
すぐに既読がつくがメッセージが返ってくる様子はない。
別に…王様が居ても、僕と会えない理由になんかならないよ。
全てが絶望的で、せめて自分にくらい強がりを言ってみる。
行けば、もっと酷い現実を目の当たりにするかもしれない。
けど、和奏の家へ向かう足は止まらない。
例えば、死刑台に向かう囚人は、こんな気持ちだろうか。