第9章 有明月
[プーップーップーッ]
間抜けな機械音がいつまでも耳元で鳴っている。
何なんだ…?
何で…王様が和奏の側にいるんだ?
2人が付き合っているから…?
今更、今日の午後に何があったのか、もっとしっかり聞いておけば良かった…と後悔する。
王様は僕達の関係の事を知っているのだろうか。
いや、そんな事より…
和奏は王様の事が好きなんだろうか。
そこまで考えて、目の前が暗くなるのを感じた。
身体が自分の物じゃないように重たい。
さっきまで僕の腕の中に居たのに、
今は電話で話す事も叶わない。
ちゃんと謝っていれば。
もっと早く気持ちを伝えていれば。
何で僕はいつも過去を悔いる事しか出来ないんだろう。
和奏…声が聞きたい。
笑った顔が見たい。
隣に居たい。
そんな願いは、もう全部叶わないのだろうか。
和奏の居ない世界なんかじゃ、生きていけないと気付いたばかりなのに。
気が付いたら空が白んで、
太陽が周りに色を与えていた。
いつの間にか夜が明けたんだ。
いつも通り…朝練前に和奏を迎えに行こう。
もしかしたら家に王様がいるかもしれない。
そんな事よりも、一目でも和奏に会いたい。
声が聞きたい。
和奏の家の合鍵を片手に、僕は自分の部屋を後にした。