第8章 朧月
本当に…こっちの状況なんて関係ないんだな。
そうだ。皐月はそれほど俺に興味がないんだ。
その事実に思い至って、自分の理性に亀裂が生じたのがわかった。
「それ、本気で言ってるのか?」
「うん…。このままじゃ、いつまで経っても変わらないって…やっとわかった。本当…今更だよね。蛍とはちゃんと距離を置く。もう2人で会わない。」
決心の強い皐月の瞳を見て、我慢出来ずに彼女の手の中で震える携帯を強引に奪う。
「ちょ…影山くん?返して!」
必死に手を伸ばしているが、この身長差で届くはずがない。
ピョンピョン飛び跳ねる皐月に構わず、通話ボタンを押す。
「影山くん!」
何考えてるの?と口に出さなくても皐月の顔に書いてある。
でも、今は皐月に構っている暇はない。
「和奏?出るの遅いよ。何回鳴らしたと思ってるのさ…。」
電話越しに殴り殺したい奴と話しているんだから。
「皐月は今、電話に出れない。」
「…王様…?なんで、和奏の携帯に王様が出るの?」
向こうもきっと俺の事を殺したいんだろう。
それぐらい殺意に溢れた声が聞こえてくる。
皐月はピョンピョン飛び跳ねる事は諦め、不安そうにこちらを見上げている。
余計な事言ったら許さない…と目が語っている。
「お前には関係ないだろ。それとも皐月と付き合うのに保護者の許可でもいるのか?」
「は…?和奏と王様が?冗談ならせめて笑える冗談にしなよ。」
全く信じてない様子の月島。
皐月もドンドンとお腹の辺りを叩いている。
何言ってるの?とでも言いたいんだろう。
でも、ここで引くわけにはいかない。
「お前が笑えるかどうかなんて、知るか。とにかく、お前らもう2人で会うな。電話もしてくるな。」
「…。ねぇ、怒らせないでくれる?なんで王様にそんな事を言われなきゃいけないの?」
「俺じゃねぇよ。皐月がお前とは会いたくないって言ってんだよ。」
「いい加減にしなよ。和奏に代わって。」
「いや、もう話す事ないから。」
ピッと電話を切る。
「影山くん!ちょ…何言ってるの??あんな事言ったら、蛍に付き合ってるって勘違いされちゃうよ。」