第8章 朧月
電話が切れたのを見計らって、
ポカポカと五月雨式にパンチが打ち込まれる。
「距離置くんじゃなかったのかよ?もう2人で会わないんだろ?違うのかよ?」
うっ…と皐月がパンチをやめる。
「勘違いさせとけよ。お前の事が好きだって馬鹿な奴は、利用したらいいんだよ。」
「影山くん…?」
不思議そうにこちらを見上げる皐月。
本当に全部説明しないと全然伝わらないんだな。
そんな鈍い様子さえも可愛いと思えるのは重症かもしれない。
「もう皐月が泣かなくていいように、俺が守ってやるから。だから…嘘でもいいから、俺の彼女になれって言ってるんだろ。」
「いや…あの…でも…」
あたふたした皐月の様子に、先程より少しの手応えを感じる。
ここまで来たら、押すしかない。
「私…影山くんの事、好きになれるかわからないよ。」
「そんなの俺が勝手に頑張るから、お前の気にすることじゃない。俺が利用していいって言ってるんだから…皐月は何も考えずに甘えてればいいんだよ。」
「でも…でも…」
「どんな理由ひねり出して来たって、付き合う為なら俺が全部何とかするから。」
月島が好き以外の理由なら全部。
「でも…」
「まだ言うのかよ。そろそろ黙れ。」
皐月がコクリと首を縦に振るのを見届け、
目の前の俺の彼女を抱きしめた。
腕の中で小さく震える皐月を見て思い出す。
泣いてるのか。。。
そうだ。皐月は10年越しの恋を終わらせたところなんだ。
「なぁ、好きになれ…なんて言わないから、今日は朝まで一緒に居させて。」
今なら欲望にも簡単に打ち勝てる気がする。