第5章 寒月
「いや、皐月は一緒だったけど、あいつ体調悪いから今日は部活休むって…」
「やっぱり抜け駆けかましてんじゃねーか。えぇ?」
「皐月に何をした!全部吐け。全部吐けば許してやるか考える!」
話している途中から、また田中さんと西谷さんに絡まれる。
胸ぐらを掴んで激しく揺さぶってくるのはどっちだ。
首がガクガクして、喋ろうにも喋れない。
「ストップ。」
「「潔子さん!!」」
清水先輩の一声で、2年生コンビ の動きの止まる。
さながら猛獣使いだ。
「和奏ちゃんからは体調が悪いから休むって連絡貰ってる。影山は付き添ってくれてて、もし練習に遅れちゃったら私のせいですってメールに書いてあったけど…?」
「うす。」
練習に遅れたとしても皐月のせいではないが、
わざわざ説明するのも面倒なので、短く肯定した。
まだ皆、それぞれ言いたい事はありそうだが清水先輩の無言のプレッシャーに後押しされ、いつも通り練習を開始した。
普段は休憩時間も休みなくボールに触れ続けるのだが、
今日ばっかりは避難した方が良さそうだ。
2年生コンビが今にも噛みつきそうな目でこちらを見ている。
休憩の号令と同時に、体育館を出て、少し離れた水道まで移動する。
さすがにここまで追いかけて、何か言いたい奴もそうそう居ないだろう。
「ねぇ。和奏が王様に迷惑かけちゃったみたいでごめんね。」
そう、月島を除いて。
何となく、来るだろうと思ってたから、特に驚きもせずに濡らした顔をタオルで拭った。
「迷惑って…別にお前の女じゃないだろ。」