第5章 寒月
俺が頷くと、皐月が安心しきった顔で海の方を眺めた。
その横顔がやけに綺麗で…。
今も月島の事を考えているのかと思うと、たまらなかった。
「なぁ、皐月。」
「ん?」
やっとこっちを向く皐月。
わかってる。今は眼中に入ってないって事。
でも…月島じゃダメだ。
皐月はいつまで経っても笑えない。
誰か…じゃダメなんだ。
俺が…。
「お前、どうしても月島じゃないとダメなのか?」
「え…?」
「俺は…皐月の事が好きだ。」
それからは、何を喋ったか覚えてない。
ただ、真っ赤になった皐月の顔を見て、俺の言いたい事はちゃんと伝わってると…それだけはハッキリとわかった。
皐月と別れてからダッシュで学校に戻る。
今日は日向の方が先に体育館に着いているだろうから、俺に1敗が加わる。
普段なら悔しくて仕方ないが、今はそんな事どうでもよかった。
「ちわっ…」
「影山ー!どういう事だ!」
「え?抜け駆けか?先輩差し置いて、抜け駆けかましてくれちゃったのか?」
挨拶をしながら、体育館の入り口に手を掛けると、
西谷さんと田中さんが、物凄い勢いで飛び出して来た。
な…何事だ?
まだ、遅刻ではないはず…。
「あれ?皐月さんは?影山、一緒じゃなかったのか?」
西谷さんと田中さんの後ろから、オレンジ色のチビがひょこっと覗いてる。
そして、その後ろにはバレー部の面々が勢揃い…いや、月島だけ興味なさそうに奥でボールを触っていた。
突然の事に無言でいると、
「昼休みにトス上げて貰おうと思って、お前のクラス行ったら、1限からずっといないって言われて…じゃあ皐月さんに手伝って貰おうと思ったら、皐月さんも今日は朝から居ないって言われて…2人とも朝練には居たのに…おかしいなって思ってたら、キャプテン達が影山と皐月さんは一緒に居るんじゃないかって言い出したんだ。…一緒じゃないのか?」
日向がこの状況を丁寧に説明してくれた。
なるほど…皆、皐月が心配でこんな事になってるのか。