第1章 朔
「和奏、今日泊まっていってもいい?」
蛍はこちらを見ることもなく、ベッドサイドの眼鏡に手を伸ばしながら尋ねた。
「どうせ、最初からそのつもりだったんでしょ?明日も朝練あるんだから、早く寝よう。」
蛍が何の事前連絡もなく、夜10時以降に訪ねてくる時は、そのまま泊まって行くに決まっている。
それくらいは長い付き合いでお見通しだ。
蛍はベッドから抜け出すと、勝手知ったる様子で冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出している。
そんな様子を横目で見ながら、私の両親もタチの悪い相手に、合鍵を託したものだな…なんて考えているうちに私は深い眠りに落ちていった。
私と月島蛍が知り合ったのは…覚えてもないくらい昔の事だ。
家がお隣同士の同級生…いわゆる幼馴染というやつだ。
小さな頃から何をするのも一緒だった。
初恋の相手が幼馴染なんて、ベタだけど…類に漏れず、私の初恋の人は蛍だった。
強がりで過去形で言ってみたが、幼い頃からの恋心が簡単に心変わりする事はなく、私は今でも蛍の事が好きだ。
付き合えたら…と何度も思った。
そう、私と蛍の関係性は昔からあまり変わらない。
憧れていた彼氏彼女の関係には一歩も近付く事が出来ていない。
幼馴染。そして、最近ではセフレ。。。
むしろ、遠退いているのではないかとさえ思う。