第4章 風月
「お…おい。」
思わぬ方向から声が聞こえて、驚いて顔をあげる。
「か…影山…くん。」
蛍の声でない事は分かっていたけど…
よりによって、影山くん…。
同じクラスでこれから、一緒に授業なんですけど…。
気まずいのはごめんだ!
「あ…あの、私…ちょっと…えっと…お腹!私、お腹が痛くて…それで…」
あっ、ダメだ。
全然信じてくれてない。
仏頂面で近付いてくる影山くんに、「ボゲェ!」って怒鳴られる準備をしていたのに…
あ…れ?
抱きしめられてるの…?
嗅ぎなれた蛍の香りとは、また違う…って…
何考えてるんだ!私、変態みたいじゃん。
頭によぎった考えを振り払う為に、影山くんを見つめる。
うわ…顔近っ…。
そっか、蛍より背が低いから。。。
それでも十分背の高い、見慣れない角度で見上げた影山くんに思わず赤面する。
「え…影山くん!?えっと…」
「何も言わなくていい。俺には嘘もつかなくていい。泣きたいなら、ここで泣けばいい。だから…1人で無理するな。」
1人で焦る私とは真逆の落ち着いた声で影山くんが言った。
そっか…見られてたのか。
見られてたって…何を?
泣いているところ…?それとも…。
「影山くん…見ちゃったの?」
「すまん。たまたま通りかかって。話も聞こえた。」
蛍と一緒のところから見られてたなんて…
穴に入ったくらいじゃ済まないよ。。。
「…。恥ずかし過ぎて死にたい。」
消えてなくなってしまいたい。
きっとドン引きされてるだろう。
当たり前だ。
ドン引きされるような事をしてたのだ…。
影山くんの顔を見ることが出来ず、俯くと、
上から遠慮がちな声が聞こえてくる。
「なぁ、皐月。1つだけ聞いてもいいか?その…月島には…無理矢理されてるのか…?」
違う!影山くんは勘違いしてる!
恥ずかしいとか…そんな事より誤解を解かないと!
「違うの!蛍は悪くないの!!でも…なんで…なんでこんな事になっちゃったんだろう…」
蛍は悪くない。
きっと…私のせいで蛍がイライラしてるんだ。
きっと…私のせいで、こんな事になってるんだ。
でも、理由はわからないの。
「なんで…なんで…」
いつも心の中で強く唱えている言葉を口に出すと、
一旦止まった涙が堰を切ったように溢れ出した。