第4章 風月
なんで…。
なんで…なんで…。
強く繰り返すくらいでわかるなら、
とっくの昔に答えが出てるはずなのに。
なんで、こんな関係になってしまったのか?
なんで、蛍は怒っているのか?
「僕、先行くよ。1限目から移動教室なんだ。」
今だってそう言い残し、振り向きもせずに去っていく蛍の後ろ姿からは…
ただ蛍がイライラしてる事しかわからなくて。
知りたい答えなんて、何ひとつ教えてくれない。
少し前までは蛍の考えてる事なんて、
何でも手に取るようにわかったのに。
「月島君ってカッコいいけど…ちょっと絡みづらいよね。」
「わかる!凄い難しい事考えてそうだもん。」
中学の頃、周りの女子たちはそんな話をしていたけど、
蛍の考えてる事なんて、単純。
お気に入りのアーティストの新譜の発売日だったり、
美味しいショートケーキが食べたいだったり、
蛍って名前の読み方を説明するのが面倒だったり…。
口にこそ出さないが、思っていることがそのまま顔に書いてあるのに…。
何で他の子にはわからないんだろ?
そう思う反面、それが私に優越感を与えていた。
「蛍、帰りに私の家寄らない?お母さんがショートケーキ買って来たんだって!」
蛍を喜ばすのも簡単。
「せっかくおばさんが買って来てくれたんだし、行ってあげてもいいよ。」
ただ、無表情でそう言い放つ蛍が、本心では喜んでいるって、
他の子にはわからないらしい。
嬉しそうな表情の蛍を思い出しながら、体育館裏の床に座り込むと、
その拍子に涙が溢れて来た。
なんだか…知らない人みたい。
柄にもない。と、心の中で自分の事を笑ってみるけど、
涙が止まってくれる気配はない。