第16章 佳月
「あの…今日はいつもより早いんだね。」
ひとまず中に…と和奏が俺を招き入れながら、そう言う。
今更…話題をそらすなんて、無理な話だろう。
「俺が…いつも通りの時間に迎えに来て、月島とバッティングしなきゃ、隠してようとでも思ってたのか?」
「違う!ちゃんと、今日話すつもりだった!」
バッと慌てて振り向く和奏。
そんなに慌てなくても、知ってるよ。
隠れて二股なんて掛けられるタイプじゃない事くらい。
でも…。
「俺は…知らずに済むなら、嘘付かれてでも、知りたくなかったけどな。」
情けない事を言っているのはわかってる。
それでも、ショック過ぎて…。
「あ…の…。ごめんなさい。」
和奏が泣き出す。
泣くなよ。ズルいだろ。
和奏が泣いてると、俺はどうしたって和奏を許してしまうのに。
「なぁ…月島に…抱かれたのか?」
わかってる。
こんな質問…もう意味ない事だって。
でも、最後くらい彼氏ヅラさせろよ。
ブンブンと首を横に振る和奏。
嘘では無いのだろう。
「じゃあ…酷い事はされてないんだな?」
これも…今更、何の心配だよ。
和奏が酷い事されて、月島の事嫌えばいいのに…なんて、ちょっとでも考えてしまった自分が許せない。
「影山くん…ごめんなさい。私…。」
例えば、クラスの奴らが付き合っただの、別れただの話している時に、「他に好きな人が出来て」って言うのは、別れの理由でよく出てくる。
珍しくもない使い古された理由。
でも…言われる方はこんな気分なんだな。
まるで、死刑宣告だろ。
「なぁ、付き合う時に質問した事、覚えてるか?どうしても月島じゃないとダメなのか?って。今なら…どう答える?」
ただ、宣告を待ってるだけなんて、性に合わない。
こんなの自分に不利なだけの誘導尋問だけど。