第15章 三日月
「蛍…びしょ濡れだよ。。。」
腕の中でモゾモゾと動きながら和奏が言った。
「あっ…濡れちゃった?ごめん。」
慌てて身体を離す。
こんな事なら簡単に謝れるのに。
「タオル…出してくる。えっと…上がって?」
まだ僕を部屋に上げていいのか、躊躇している様子だ。
ポタポタと水滴が垂れるので、玄関を一歩だけ入った所で和奏がタオルを渡してくれるのを待つ。
「雷は…大丈夫だったの?」
和奏が渡してくれるタオルを受け取り、頭を拭き上げる。
タオルから…和奏の匂いがする。
何だろう。柔軟剤かなぁ?
少し良からぬ事を考えてしまったけど、
これくらいで今日の僕の理性は揺るがないと思う。
何たって決死の覚悟で来ているのだ。
決死の覚悟って…、
必死すぎて、なんだか、それだけでカッコ悪いな。。。
和奏の前では僕はいつもカッコ悪い。
「う…ん。カーテン締め切って、頭から布団被ってたんだ。」
へへっと照れ臭そうに笑う和奏が可愛い。
何て返していいか考えていると、和奏がニコリと笑って続けた。
「でも、蛍が来てくれたから、もう大丈夫だね!」
…。
そうだった。和奏はいつも僕の状況なんて無関係に爆弾を投げ込んでくるんだった。
さっきまでの決心も脆く、一瞬和奏にキスしたくなる。
残った理性を総動員で、何だか萎えそうな話題を振る。
「ってか、何で1人なのさ?王様は?一緒に帰ったんじゃないの?」
いや、自分で出したくせに、我ながら最悪の話題だな。
「あっ…うん。飛雄はすぐに帰っちゃったんだ。」
すぐに?
あのスタミナ馬鹿が合宿くらいで疲れるはずないだろう。
それにいつも夜遅くまで入り浸ってるという噂は聞いてる。
何で?と聞きかけた時に、和奏が言葉を繋げた。
「ちょっと…怒らせちゃって。」
和奏の少し泣きそうな顔を見ると、
何で?とは聞けなかった。