第8章 後悔は先に立たないのにやっちまうことは多い(後編)
ただいま絶賛パシリ中。
「うーー…むーー…」
お弁当を勝手に食べた罰として二人に飲み物を奢るために、わたしは日頃からよく利用している自販機前で、なにを買おうか悩んでいた。
わざわざ部活終わり指定しなくてもいいんじゃないかな?
わたし帰宅部なんですけど。久々にバイト休みだらんらんるーだったんですけど。
「ちっ……黒尾くんはこれにしよう」
ピッ、ゴトン。
新発売の『ぐんぐんミルクまじかるバナナ味』。
……いったい、なにがどんな風にまじかるってんだろう?気になってたんだよね、おいしそうに飲んでたら一口もらおう。
「えーと、やっくんはー…」
ピッ、ゴトン。
『紅茶物語〜禁断の赤い果実編〜』……ネーミングはともかく、おいしいんだよこのアップルティー。
甘ったるくない紅茶の風味はしっかりしつつ、苦味も渋さもえぐみも一切ないところに林檎の爽やかでフルーティな香りが強すぎずほどよく調和していて、後味すっきり喉が渇いたときにごくごく飲めてもう最高!
………ごくり。
「……自分のも買おうかな」
なんか飲みたくなってきた。
でも同じもの買うのはもったいない気がするし……やっくんに少し貰って他の飲み物にするべきか。
真剣に自販機を睨みつけながら唸っていたら、ふと背後に人の気配を感じた。
待たれるの嫌だなーとちょっと焦りながら後ろをチラ見。
………ほあ!?
「あ、やっぱり……」
この一年で、すっかり見慣れた猫背。
視界を狭めているだろう長めの前髪は、黒く風にさらりと揺れて。
あまり人と合わせることのない大きな猫目は、たしかにわたしを捉えながら。
高くはないけれど低すぎず、耳に心地よく響く声がぼそっと名前を呼んだ。
「ニャンニャンさん」
それは。
つい昨日も会ったばかりで。
可愛くて大好きな。
お気に入りの…