第5章 10月16日ですけどなにか?(番外編)
ただ……この人に名前を呼ばれると、心臓が跳ねる。
『なに』
ニー
『誕生日おめでとう』
こんな短い定型文が嬉しいとか……おかしい。鼓動が強く速くなって……ちゃんと意識してないと、体が震えそうになる。
『ありかど』
……あ、間違えた。ゲームではこんなミス、絶対しないのに…ありえない。
ニー
『?』
『まちがえた』
『ありがとう』
ニー
『いえいえ』
『むしろこっちがありがとう』
なにが……?ニャンニャンさんは、たまに理解不能なことを言う。
『なんで?』
ニー
『なんでも』
『乙女的事情です』
ほんと、変わってる…わけがわからない……けど。
『ふーん』
『よくわからないけど』
『またねニャンニャンさん』
べつに嫌じゃない……未知のダンジョンに遭遇してるような感じ。
ニー
『うん、またねー』
そのうち、攻略できるかな……そうしたら、どうなるんだろう……飽きるかな、それとも………。
『アイテムあつめ』
『たのしみにしてるから』
じわじわと沸き上がってくる……新しいゲームをはじめるときと似ている、少しの高揚感。
『おやすみ』
ニャンニャンさんも感じていればいいのに……ふと、そう思った。
ニー
『おやすみ』
頭の中、ニャンニャンさんの声で再生された。ドクリ…また心臓が跳ねる。痛くはないけど気になって胸を押さえた。
「………ほんと、なんだろ…これ…」
おやすみ……眠る前の挨拶なのに……まるで逆効果…。
next...?