第3章 ~秋~ 10月
「彼女はもう居ない。だから……似ているお前に、いつもあいつを重ねていた」
いきなり言われても、思考が追いつかない。
「あいつの影を追うように、俺はお前に惹かれていた」
……どういう事か、分からない。
「いけない事だと分かっていた。だから……今日を最後に、ここへは来ないと決めていた」
今日が最後だなんて……私は知らない。
「お前は自由だ。こんな……情けねぇ男に構うな。いい男を見つけて、幸せになれ」
そして最後に、またこの言葉。
「悪かった」
彼の言っている事が、よく分からない。
まだ唇に残る、キスの感触。
頭がぼーっとして。理解出来ない。
彼は私の肩から手を離し、路地に落ちた紙袋を拾う。
つい数分前、私が渡した物だ。
「……行くぞ」
激しく襲いかかる虚無感。
彼の視線を感じるのに、私はその顔を見れない。
規則的に並べられた石畳にさえ、焦点が合わない。
ふいに握られた、私の左手。
彼がその手を引くものだから、無言のまま歩き出した。
リヴァイの手に握られた紙袋が、人の気も知らずにプラプラと揺れている。
……彼が分からない。
私を前に、他の誰かを見ていたのなら。
あなたは……
私の手を取り、誰と手を握っていたのだろう?
~秋~ END