第3章 ~秋~ 10月
ナイルの言葉は素直に嬉しい。
心から私を思ってくれているのが、言葉の端々から伝わってくる。
ただ、気にかかるのは『内地の男』
私の気持ちを打ち明けた者は皆、この言葉を口にする。
確かにかつて3重だった壁の内側へ行けば行くほど『安全で快適な暮らし』が約束されていて。身分も高いとされる。
私はこの街が好きだ。
住んでいる人も好き。
子供だって好き。だからこそ、
結婚して子供を産んで、暖かな家庭を築く。
いつか、そんな幸せが欲しいと思っていた。
だがリヴァイと共に過ごしていると、その価値観に当てはまらない何かに触れるのだ。
どうしようもなく『欲しい』と感じる何かに……
「エル」
その日の午後、無事に到着した調査兵団の2人を案内していた時だ。たまたま通りかかった憲兵団幹部とエルヴィンが立ち話をしていた最中、リヴァイが声をかけて来た。
「今日の仕事終わり、空いてるか?」
背後から囁くように言われ、脈が上がる。
波打つ鼓動を感じながら、エルは首を縦に振った。
「そりゃ良かった。メシ行くぞ……2人で」
「……っ!」
リヴァイの吐息が耳元を掠め、思わず彼へ向き直った。
恐らく顔が赤いのだろう。こちらを見た彼は呆れたように微笑み、一言「仕事中だ」と言って私をまた前に向かせた。
その際、腰に回された手がなかなか離れなくて……
前回手を繋いだ事もあり、私はどうしても期待してしまう。
彼も、私が好きなんじゃないかって。