第9章 声
小牧の “そういうことなんでしょ?” の言葉がこだまする。
「 “そういうこと” …か」
今まで何かしら付き合ってきたやつはいる。
だが、自分から好意を寄せたことはなく、ただ単に流れに任せていた節もあった。
それに、仕事優先の俺だということもあり、上手くいくはずもない。
香の顔を思い浮かべる。
自然と力が抜けて、ホッと息がつけた。
「初めてなんだよな…」
今回そういう気持ちになったのは。
最初は上官という立場だから、香のことを気にしているんだと思った。
日に日に違うことに気付いてはいたが、上官だからと自分に言い聞かせようとした…が、それはあの日で、もう無理なんだということが分かった。
“部下ではなく、一人の女性として思っている”
素直に認めるといっそ清々しい。
「まぁ言い聞かせてもどうしようもないからな」
開き直るようにビールを飲み干す。
「っし…」
俺は立ち上がり、洗面所へ向かった。