第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
ローがユーリの死体を抱えてフレバンスに戻ると、ギルベルト達が待っていた。
ユーリを見た瞬間、周りは騒然としていたが、ローだけは怖いくらい静かだった。
そんな彼に労る言葉をかけようとしたが、止めた。
本当は聞きたいこと、伝えたいことが沢山あったが、きっと今の彼には何を言っても心に届かないだろう。
そしてユーリの葬儀は準備が整い次第行うということになり、取り合えずローを解放することにした。
一切言葉を発することなく、ユーリを抱きかかえて去っていく彼の姿は、見ていられなかった。
シュライヤがローを1人にしていいのかと心配していたが、暫く二人だけにしてあげようという事になった。
ローはユーリをベットに横たえると、近くのイスに座りその姿をずっと見ていた。
穏やかで、幸せそうな彼女の表情は、まだ生きているようだ。
「……」
ローはユーリの顔にかかった髪を払おうと手を伸ばした瞬間、バランスを崩して倒れた。
本人は気づいていないが、彼の身体もボロボロだ。
でも、痛みは感じなかった。
身体も、心も、何も感じなかった。
ローは起き上がると、ふと足元に古い本が落ちた。
ページを開いた状態で落ちた本は、白紙のはずなのに、文字が書かれていた。
不審に思ったローはその本を手に取って読んでみれば、ユーリからのメッセージが書いてあった。
時期的に船に乗っていたとき書いたのだろうか。
ローは息をするのも忘れて、読み進めていくと、ある文章で止まった。
ポタリ、ポタリと枯れた筈の涙が落ちていく。
ローは日が昇れば、ユーリと一緒にこの世から去るつもりだった。
ローが不自然なほど落ち着いていたのは、その考えがあったからだ。
しかし、それは彼女によって止められた。
後を追うことも許されず、一体これからどうやって生きて行けばいいのか。
ローの手から本が滑り落ちる。
ユーリに覆いかぶさるように抱きついたローは、声を上げて泣いた。
流れ落ちる大粒の涙は、ユーリの頬を静かに流れていく。
まるで彼女も、泣いているようだった。