第3章 後編 愛する彼女と死の外科医
ローが診察している様子を、ユーリは静かに見ていた。
そう言えば昨日から口数が極端に減った気もするが、彼女も疲れているのだろう。
ローは特に深く考えることなく、ユーリの目の下に指を添えて瞳孔や瞼裏を見ていた。
「……ねぇ」
ふとユーリの瞳がローを捕らえた。
今まで焦点が合ってないような感じでぼーっとしていたので、ローは少し驚いていた。
少しだけ、彼女の瞳を怖く感じてしまった。
「どうした?」
ローはユーリの顔から手を離すと、彼女の顔を覗き込んでその先の言葉を待った。
ユーリを怖がるなど、どうかしてると思いローは彼女に笑いかけた。
だけど、彼女の表情は変わらなかった。
「……私のこと好き?」
そして沈黙が流れること数秒、彼女の口からそんな言葉が出てきた。
「……あぁ」
ローは今のタイミングでそんな言葉が出てくるとは思っていなかったので、少し彼女の真意を探っていた。
「愛している?」
そして再び沈黙が流れた後、立て続けにそんな言葉が聞こえて来た。
もしかしたら、暫くの間ユーリの元を離れるので、それが不安で聞いたのかもしれない。
「愛している」
一呼吸を置いて、はっきりと伝えた彼の言葉は、静かに部屋の中へ響いていった。
「じゃぁさ……」
ユーリは起き上がるとローの手を握り引き寄せた。
そして、彼の身体にそっと寄り掛かった。
彼女のペンダントが、光ったような気がした。
「死んで?」
静かに呟かれた言葉。
ローの身体には、ナイフが突き刺されていた。