第1章 前編 時の彼女と死の外科医
「………やばい」
アパートの自室で携帯を触っていたユーリは、そっと呟いた。
ブームは数年遅れてやって来る、そんなルールはいつできたのだろうか。
ユーリは久々に、深い…深い溝にはまって行く感覚を感じた。
「…トラファルガー・ローを好きになってしまった…しかもブームが起きて暫く経った後に」
ユーリは深いため息をついた。
なんとも似たような感覚を、数年前に味わったような気がする。
確かあれはSIRENというホラーゲームで、宮田先生と言う医者を好きになった時とまったく同じだ。
あれもブームが過ぎてから、急にはまってしまったのだ。
(今回も医者ってどんだけ私は医者が好きなんだよ!?しかもまたブーム去ってるから一緒に盛り上がれる人いないし!!)
ユーリはこれから楽しみが増えた喜びと共に、少し残念な気持ちになった。
ワンピースは始まった当初から知っていたし、ドレスローザ編も数年前にテレビでちょいちょい見ていたはずだ。
その時にローも見ていたはずだが、なぜかその時はそんなに気にならなかった。
そして今、きっかけは覚えていないがネットを徘徊してるうちにどっぷりハマってしまったのだ。
(っく!いいんだ!ブームが過ぎた後というのは小説もイラストも豊富なんだ!宝の山だ!いえーい!)
因みにユーリは腐女子である。キャラを単体で好きになる時もあれば、ペアで好きになる時もある、つまり宝の山とは…
「ふふふ、ローとルフィの関係、まじ好きすぎる」
携帯を見つめながらニヤニヤしてるその表情は不審者極まりない。
しかし最近はまれるものがなかったユーリは、そんなことどうでもよかった。
さっそくネットで検索を掛けているその姿は、最早誰にも止められないだろう。
こうしてユーリの楽しみが始まったと同時に、この時は予想だにしなかった、長い、長い物語もまた幕を開けたのだ。