第50章 NO DANCE NO LIVE!
「いちにっ、さんしっ……ここでターンっ!最後に決めっ!……ふぅ……。よしっ、もう1回っ。」
夜、共有スペース。
当たり前のように眠れない私は、またいつものように夜通し練習を続けていた。
現在、夜の間だけは私専用のレッスン室になっている共有スペース。最初は暗くて広くて少し怖かったけれど、もう慣れて、逆に安心してしまうほどだ。
音楽を流していたミュージックプレイヤーに触れて音を止め、呼吸を整える。
ふとお昼のことを思い出して、また身体が止まる。
エリちゃんには、笑っていて欲しい。幸せに、なって欲しい。それは絶対。
だけど、治崎さんの、あのことは?
両立する?甘いんじゃないのか?
どちらかを、選ばなければいけないならば、
私は、
「ひよこちゃん。」
「…えっ、あ、」
振り向くとそこには出久くんが立っていた。
考え事をしすぎてエレベーターが着いた音に気が付かなかったみたい。
「ちょっと、休憩にしない?」
「あ……うん。そうだね、そうする。」
出久くんの顔をしっかり見られないまますすっとソファに座った。
なにを話そうか悩んでいたら、私より先に出久くんが話し出した。
「なにかあった?」
「えっ?」
出久くんは心配そうにこちらをのぞき込んでそう言った。私は目を丸くしてその顔を見つめ返す。
バレちゃった、って思った。
「今日、お昼…エリちゃんと出会った時くらいから、何かずっと考えてる感じだよね?」
「…な、なんでわかるの?」
「分かるよ。何年一緒にいると思ってるのさ。」
「そ、っかぁ、出久くんには分かっちゃうんだ…。」
目を逸らして下唇を噛む。
分かられてしまうことが恥ずかしいような申し訳ないような、嬉しいような。
「僕でよければ聞く、けど…」
「んー……あのね、実は……」
それから私は、今頭の中にあることを全て、包み隠さず話した。
エリちゃんの幸せを願ったことも、治崎さんのこともしっかり考えたいと思ったことも、その両方が両立するなんて、難しいんじゃないかってことも。
ポツポツと1つずつ言葉を吐いて、ようやく言い終わり彼を見ると、彼は真剣な顔をして考え込んでいた。
彼がこんなに真剣に考えてくれるのが申し訳なくて、でも、どうしようもなく嬉しかった。