第50章 NO DANCE NO LIVE!
ひたすら練習をしている間でも、噂は蔓延っていた。
好奇の目で遠巻きに見られることも、ちょっともう慣れた。それでもやっぱりそういう目線は苦手で、できるだけ目立たないように過ごしている。
できるだけ人の目が少ない場所を探そうと、下を向いて校舎裏へ向かって逃げてきた。
段差になっている所に腰をかけて、きゅうっと小さくなる。せっかく持ってきたお弁当は、コロンと転がって横になった。全然お腹空かない。これは多分、不眠症のせいでもあるんだろう。
勉強も、ヒーローとしての訓練も、ダンスの練習も。全部頑張らなきゃ行けないのに、身体がついてこない。ただでさえ遅れているのに、私は。
やりたいって気持ちだけ動いて、みんなに迷惑かけちゃってないかな。
ボーッと足元の雑草を触っていると誰かが来る足音がした。慌てて顔を上げて音がした方へ目を向けるとそこには、
「あ、安藤だ。」
「あ、人使くんだ。」
彼は普段通りのリアクションをとって、特に驚きもしないまま私の隣に座った。
「よく来るの?ここ。」
「時々。安藤はなんで?」
「うーん……避難所、的な。」
「ふーん。」
ちょっと弱気なことを言っても、人使くんは心配しないでいてくれる。それがすごく助かった。
「弁当食べないの?」
「……食べてもいいよ。」
「俺はもう食べたからいい。」
人使くんはそれだけ言うとスマホを触り始めた。私はその姿を見て安心すると、目を閉じて膝を抱え込む。
「今まで目立ったこと無かったけどさ、目立つのも、大変なんだね。」
「そらそうだろ。」
落ちた髪の隙間から彼を見ると、彼はスマホを置いて伸びをしていた。
「ま、ヒーローになったらさ、嫌でも目立つんだし。」
「ちょっと怖いね。」
そう言って笑うと、人使くんは私のデコを人差し指でパチンと弾いた。
「あいだっ!」
「でも、そんなことで諦められないだろ。お互い。」
「そっか…!そう、だよね。ヒーローになるためにも…」
人使くんは、いつも通りなんともない顔をしていた。それを見て安心した私は、目を瞑って伏せる。
「…ねてもいい?」
「お好きに。」
風が心地よくて、私は久しぶりによく眠れそうだった。
「ダンス…さ……ほんばん……みにきて……ね…」
「ん。」
意識を手放す直前、髪を撫でてくれる感触がした。気がした。
