第50章 NO DANCE NO LIVE!
side 切島鋭児郎
夜。
疲れて仕方なかったけれど、もしかしたら安藤がまだいるかもしれないと思って共有スペースに来た。
「1、2、3、4っ、もう1回っ、ここでターンっ!軸ブレないようにっ……。」
予想通り、彼女は練習を続けていた。
小声でブツブツと何かを唱えながら、一心不乱に踊って息を切らしている。
少し感じていた心配の気持ちはその姿を見ればすぐに消えうせて、ただ、見ていたいと思うようになっていた。
「…ラストのターンっ___ぅわわぁっ!」
「あっ、安藤!?」
「えっ、鋭児郎くんっ!?」
よろめいた安藤を受け止めるため、思わず飛び出してしまった。
思わず出た両腕に、安藤が倒れこんでくることはなかった。ギリギリのところでバランスを取った安藤は、慌ててこちらに向きかえる。
「み、みてたの!?」
「ま、まぁ…ひと通り。」
「…っ!ど、どうだった!?」
安藤は一瞬恥ずかしそうに目を逸らしたあと、すぐにこちらへ熱をおびた目をグイッとこちらにむける。
「最後ちょっとバランス崩しちゃったけど、それ以外は今までで1番踊れてた気がする!」
「お…そうだな…」
「あっ、いきなり…ごめん、ビックリしたよね……。色んな人からの意見知りたいって、思ってさ。」
安藤はハッとすると照れたように後ずさりをした。
そのままソファに向かい、小さくまとまってちょこんと座った。
それに続くように俺も隣に座ると、安藤は少しソワソワしたように口を開く。
「どうだった……?そ、率直に…お願いします…。」
「そうだな……専門的なことは分からないけど、見ていたいって思ったな!」
「みて、たい……。」
安藤は言葉を噛み締めるように反復すると、頬を赤くして下を向いた。
「ほんとは今、体の動かし方とか、これで合ってたかなって不安で、ね。鋭児郎くんのおかげで自信ついた!ちょっぴりねっ!」
そう言うと安藤は顔をあげて嬉しそうにニッと笑った。柔らかくて暖かい、いつもの笑顔だ。
「あ、その顔。」
「え?」
「ダンスの時もその顔がいいかも。」
安藤は驚いた顔をしたあと、むにむにと自分の頬を触った。そしてこちらを見てまた笑う。
「…や、やって、みる!」
そう言って安藤はもう一度ダンスを始めた。
一生懸命で、ぶきっちょな笑顔で。