第50章 NO DANCE NO LIVE!
ダンスって、思ってたよりずっとずっと難しかった。
ダンスは全身を使わなくちゃいけない。上半身だけじゃダメ。下半身も絶えずステップを刻んでる。踊っている最中も、音楽も聴いて、リズムも揃えて。全部を一気にやろうとすると、頭が爆発しそうになる。
覚えたダンスを三奈ちゃんに見てもらってからアドバイスを貰うことの繰り返し。
少しやってみて分かったことは、自分が思ってる動きと本当の動きは結構違っているということだった。
「もっと、頑張んなきゃな…!」
「なぁ、安藤。」
「ん?あ、轟くん。」
しばらく練習した後、休憩に水を飲んでいると、演出隊で準備していたであろう轟くんが声をかけてくれた。
「目立つの苦手じゃなかったか?安藤、本当にダンス隊で大丈夫か?」
「え?」
「無理してねぇか?嫌だったら言えよ。」
「…ふふっ、へへっ。轟くん、なんかほんとにお母さんみたい。」
「……どっちかっていったらお父さんじゃねぇか?男だし。」
「そこなんだ。」
汗を拭いてから彼の方を見ると、彼はいつも通りの大真面目な顔でこちらを見ていた。
轟くんはいつも少しズレているけれど、その優しさは揺るがなくて裏表がない。こうやって顔を覗き込んでくれるのも、私を心配してくれてのこと。優しさからだと思う。
「大丈夫だよ。私がダンス隊したいって言ったんだ。三奈ちゃんのダンスに憧れたの。」
「憧れた、のか。」
首にかけたタオルをぎゅっと握ってぎゅっと口に力を入れる。そうしたらその顔は、笑顔みたいになった。
「うん。ヒーローと一緒。ああなりたいって、思っちゃったんだよね。」
「…そうか。なら、やるしかないな。」
轟くんは、納得したように笑ってくれた。
「ありがとう、轟くん。君はいつも優しいね。」
「礼を言われることはねぇよ。」
「ううん。私がありがとうって思ったから言ったの。」
「…そうか。」
「うん!よーし!練習戻るね!」
タオルを置いて轟くんを振り返ると、彼は小さく手を振ってくれていた。私もブンブンと大きくてを振り返す。
「暇あったらまたいろいろアドバイスしてくれたら嬉しい!」
「おう。」
練習場に戻る足取りは軽くて、少しだけステップを刻んでいた。