第49章 buzzっちゃったか
腕を握る力をもう少しだけ強めると、鋭児郎くんは私の頭にのせた手をガシガシと動かしてくれた。
「ごめんね…。」
「いや……とりあえず、なんでも言ってくれよ!」
「…じゃあ、もうちょっとだけ……このまま。……いい…?」
腕を握ったままそう言うと、鋭児郎くんの手は一瞬止まってから、また動きだした。撫でてもらって多少髪が乱れるのを感じたけれど、それでいいと思ったし、それがいいと思った。
しばらくそうやって目を瞑っていたら、段々と頭の中が整理されてきた。ダンスのこと、バズってしまった動画のこと、エリちゃんのこと。それでだんだん、またさっきのイライラが再来してきた。
「あのさっ」
「おぅ、どうした?」
「私だってさ……それなりにすごい考えててさっ、」
「おぉっ…!?」
「今だって結構大変なのにさっ!なんであんなこと言うんだろっ!」
「さっきの爆豪のことか?」
「……んっ!」
体制を整えた私は、膝を思いっきり抱え込んで愚痴る。
「勝己くんもさ、時々はさ、優しくしてくれたっていいじゃん!」
「アイツに優しくは難しくねえか?でも今日はいつもより怖かったな。」
顎に手を当てて考え込む鋭児郎君をじいっと横目で見る。何故か胸がぎゅうっとなった気がして慌てて膝に顔を埋めた。
「安藤も珍しいよな。怒ってるって言うか…イジけてる感じ?」
「……イジけてる…ふうに見える?」
「みえる。」
「うぅ…」
何故か少しだけ熱くなった顔を膝から上げて、髪の間から彼の顔を見る。こっちを見てる。私は口をもにもにと動かしてから顎を膝にくっつける。
「……なんかさ、勝己くんはさ。いつも厳しくて怖いけど、結構真っ当なこと言ってる時の方が多いなって思っててさ……。」
「…そうか?」
「うん。だからね、今回のも、ほんとは彼が正しいんだと思うんだ。黙ってねぇで動けって。……真っ当な意見で図星つかれて、イジけちゃったよ。」
眉にすこし力が入った。多分八の字になってると思う。
眉間を擦りながら顔を持ち上げると、鋭児郎くんは両手を開いてこちらを向いていた。
「?」
「あっ、いや、」
その腕の意味を何となく察してしまって、顔が熱くなる。鋭児郎くんは直ぐに腕をしまってしまって、何だか残念な気持ちになった。
今度は私から彼に手を伸ばそうとしたら、そのタイミングでエレベーターがポーンと音を立てた。
