第49章 buzzっちゃったか
「あっ、誰か来る。」
伸ばしかけた手を引っ込めてすっと距離をとり、エレベーターの方を見る。なんだか顔が熱くて、彼の方は見れなかった。
「あっ、安藤やっぱここに居たんだ!」
その元気な声は三奈ちゃんだった。
昼間より少しだけ静かな動きでエレベーターから飛び出してくる。
「って、あれ?切島も?お?これはっ?うーん?」
「ちがっ、全然深い理由はなくて!!」
「お、おう!俺も眠れなくて降りてきたとこでさ!」
「ふぅーん?」
私と鋭児郎くんは冷や汗を垂らしながら、勘違いされないようになんとか弁解した。本当になにもないのに、なんだかすごく焦った。
「あ、芦戸はどうしたんだ?なんか安藤を探してる感じだったような。」
「あ、そうそう。安藤探してたんだよね。部屋に行ってもいなくて、最近眠れてないって聞いたからもしかしたらって思って降りてきたら案の定!って感じ。」
「あっそうだったんだ。」
三奈ちゃんが夜起きてきてこうして探してくれてまで伝えようとしてくれたことが気になって、焦っていたことを一瞬で忘れて三奈ちゃんに向き合った。
彼女はいつも元気な表情を少しだけ落ち着かせて、まっすぐ私を向いてくる。緊張した。
「あのね、さっきあんな感じになっちゃったけどさ……」
あんなことっていうのはきっと、私と勝己くんが睨み合ったあのことだ。
「無理してダンス隊やることないからねっ!安藤がやりたいこと、安藤がやって楽しいこと、やって!」
「三奈ちゃん……」
「で、もし本当にダンス隊やりたいってなったらさ、ワタシが絶対ちゃんと教えるから!そこの心配は絶対要らないからね!」
胸の前で両手をギュッと握りしめ、三奈ちゃんをただ見つめる。
そう言い切る三奈ちゃんはとてもかっこよくて、なぜだか少し目に涙が溜まった。
ヒーローに憧れたあの瞬間と、とてもよく似ていた。
私も、こうなりたい。
こんなにかっこよくなれたらいいな。
目を伏せてもう一度手に力を込める。
「わたし……だ、ダンス隊、やりたい。」
声が少しだけ震えてしまった。
ダンスなんてやった事もないのに。自信なんてひとつもないのに。もっと状況が悪くなってしまうかもしれないのに。
ただ、ひとつだけ。
三奈ちゃんみたいにかっこよくなりたい。そう思ったから。
恐る恐る目を開いて三奈ちゃんを見ると、彼女は嬉しそうに笑っていた。
