第49章 buzzっちゃったか
「歌と、」
「ダンス?」
寮に戻ると、みんなが文化祭の演し物が決まったと教えてくれた。音楽の生演奏とダンス、らしい。
「おうよ!生演奏とダンスでパリピ空間の提供だ!」
「ていうか安藤なんで鼻栓してんの?」
「あ、わっ、これは」
私が慌てて両手で鼻を隠すと、みんなは直ぐにまた文化祭の演し物について話し始めた。
鼻栓は隠した勢いでそのまま外した。血は止まっていたので少し安心する。
「鼻血か?」
「わっ、轟くん。」
みんなの輪の中から轟くんだけひょっこりと出てきて私の前に立った。
「うん、鼻血。なんか、さっき急に出た。」
「大丈夫か?個性が原因だったりするんじゃねぇか?」
「んー、ううん。多分違う…んじゃないかなぁ。」
轟くんは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
轟くんは私の怪我を見た時から、ちょくちょくこうやって私と私の個性のことを心配してくれるのだ。
「安藤、あんま無理すんなよ。」
「うん、ありがとう。」
なんだか保護者みたいだな、なんて思う。轟くん、同い年だしちょっとポーっとしてるとこあるのに。
「歌とダンスだってね。」
「そうだな。」
「轟くんもダンス踊るの?」
「まぁ踊るんじゃねぇか?」
「それは見ものだねぇ。轟くんのダンス楽しみだなぁ。」
わいのわいの盛り上がっているみんなを2人で遠巻きに眺めながら話す。
「安藤は?」
「ん?」
「歌って踊るのか?」
「えっ!なんで!?」
「だってこの前歌って…」
「あーっ!その話はナシっ!忘れて!」
「ダメなのか?」
「うん、ダメ!絶対歌わないよ!」
「じゃあ踊るのか?」
「あー、んー……。」
手を後ろで組んで、少し目を伏せた。
みんなの声が少しだけ遠くに聞こえる。
「出来れば裏方とかがいいかなぁ。」
「そうなのか?」
「うん。目立つの、得意じゃないから。」
「そうか。」
「…えへっ。はずいもん。」
少し下を向いたまま口から小さく声を漏らした。あの件を気にしてるって思われたくなくて出した声だった。
轟くんはそんな声には特に反応もせず、落ち着いた声で話す。
「ちょっとずつ慣れないとな。ヒーロー目指してんだし。」
「…そうだねぇ。」
後ろに回した手を、ギュッと強く握った。
みんな、とりあえず今日は解散みたいだった。
歌とダンス、楽しいものになればいいなって思った。
