第49章 buzzっちゃったか
「鋭児郎くんは腕相撲大会だっけ?」
「あ、おう。」
インターンの穴を埋めるための補講は放課後に行われている。帰りのホームルームの後、インターンに参加したメンバーはみんな補講に集まる。
私は梅雨ちゃんの隣。鋭児郎くんの後ろの席。
「安藤は、プリン屋さん…プリン屋さん?」
「あ、えへへ、全然思いつかなくて、なんか楽しいことしたいなとは思うんだけどさ……鋭児郎くんは腕相撲好きなの?」
「いやっ、でも熱いタイマンって感じだろ!」
「タイマン……!ねね!やってみよ!戦ってみよ!!」
「おう!やるか!」
「私がどれだけ強くなったかみせてやるぞ!」
よーし!と鼻息を荒らげながら腕まくりをすると、鋭児郎くんは机にとんと肘を置く。私もと腕まくりをした瞬間、廊下の方が少しザワっとした。冷や汗が垂れる。
朝のシャッター音を思い出してしまった。
自意識過剰なのかもしれない。
でも、怖い。私の動きが逐一注目されて、それで、
「あ……っ、えと、やっぱ、また、今度やろ!」
「えっ?あ、おう!いいけどよ。どうした?」
「ううん、なんでも。……きょ、今日は万全じゃない…って思ったって言うか……!そんな感じ!えへ、へ」
私は捲った袖を元に戻し、膝の上に手を置いた。肩に力を入れて、キュッと小さくなる。
できるだけ、目立ちたくない。
「……ダークシャドウ、任せた。」
「あ、え、あっ、」
一番廊下側の席に座っていた常闇くんはそう一言だけ言うと、ダークシャドウくんをバッと広げて窓を覆った。
「廊下の方が騒がしくてな。」
「あ……。ごめんね、なんか…」
常闇くんは先程までと何ら変わらない表情で、腕を組んで下を向いていた。
「……こんな時期なのに、ごめんね。」
「ひよこちゃんが責任を感じることじゃないわよ。」
「安藤は気にしなくていいからな。」
みんなは優しく言ってくれているが、気を使ってもらっていることは変わらない。私はできる限り小さく纏まってから、できる限りの笑顔でありがとう、と伝えた。
私は気にしてないふうに机の上に置いてあったノートを広げ、前回の補習の復習を始めた。でも、全然集中出来なくて、シャープペンシルを握りながらずっと心臓が落ち着くのを待っているだけだった。