第48章 転がる岩、君に朝が降る
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いつの間にか9月も終わり、10月を迎えた。
朝晩がとても冷え込んできて、空が高くなって、時々金木犀の匂いなんかもする。もう、すっかり秋。
あれから私たちインターン組はオールマイトと相澤先生の引率のもと、サー・ナイトアイのお葬式に行った。
白檀の香りと、花の香り。ふたつが混ざった、お葬式の香りがしたのを覚えてる。
あの時、死を、遠くから見てようやっと、その実感が湧いた。
実感が湧いて、少しだけお母さんのお葬式のことも思い出した。死が恐ろしくて寂しくて、でも近くにあるものだってことを思い出した。
そんなこと、誰にも言わなかったけれど。
私はしばらくの間不眠症のままで、夜中に共有スペースでトレーニングすることも少なくなかった。時々出久くんも来てくれて、嬉しかったりもした。
「あのさ、チーズが…」
「チーズ??」
「あ、いや、なっ、なんでも…!チーズって美味しいよね!」
「…チーズ話かー。んー、私はラクレットってのをやってみたいなぁ。」
なんて会話もしつつ。
そして現在学校では、ヒーロー達のチームアップに憧れたり、必殺技の向上をしたり、インターン分の補習をしたり、なかなか忙しい日々を送っている。
「それでは今日も、必殺技の向上に努めていきましょー。」
セメントス先生が見てくれている中で、私もとグッと腕に力を込める。
「以前課した『最低2つの必殺技』。できていない人は開発を、出来てる人は更なる発展を。」
出久くんに頼って貰えるくらい。
出久くんだけじゃない。みんなから頼って貰えるくらい、信頼してもらえるくらい、頑張らなければ。
「よし!やるぞやるぞっ!」
「お、安藤すごいやる気だな。」
「うん!ね、ちょっと見て!」
近くにいた轟くんがちょっとリアクションをとってくれたので、考えてみた必殺技を披露することにする。
「えい!」
いつも血液を出すために傷つけている左手を大きく振って血液の飛沫を飛ばす。その飛沫は無数のハリのように姿を変えて近くの地面に突き刺さる。
「どーだ!」
「安藤いつも、痛くねぇのか?手。」
「…あっ!?そこ?んー……ちょっと。でも大丈夫!」
轟くんは心配げに私の手を見てくれた。
ちょっとだけ痛む指を曲げてピースをみせる。
「絆創膏あるか?」
「…ある。」
轟くん、優しかった。
