第48章 転がる岩、君に朝が降る
side 緑谷出久
ひよこちゃんの真っ赤な顔は見慣れている。
彼女はいつも真っ直ぐ、真正面からぶつかってくる。
何かのために、誰かのために、何が必要なのかずっと考えてくれている。
「た、頼れるかどうかは、別として、ね!」
真っ赤な顔で何とか言葉を繋げようとしてくれている。
それから少し下を向いてポツっと呟く。
「……ちょっとだけね、寂しかったんだ。だからさ私もさ、なにか…出来ないかなって。そうしなきゃ、どっか行っちゃうんじゃないかなって。」
耳まで赤い。
ひよこちゃんはいつもあっぷあっぷで必死だ。
「ごめんね。色々言ったけど、本当は寂しかっただけだったみたい。」
えへへ、と笑うひよこちゃんの顔は、中学の頃から何も変わっていなくて。
恥ずかしがり屋なのに僕のために声を上げてくれたことも、話す相手がいない僕に話しかけてくれたことも、勇気をだしてありったけの思いを伝えてくれたことも。
ふと思い出した。
彼女は成長しながらも、大元の何かは変わらないでいてくれる。
そんなひよこちゃんの必死な顔を見ていると心が溶けていくような、安心してしまうような、心を塞き止めていた何かが無くなるような感じがする。
「……寂しかったんだ。ごめんね」
「ちっ、ちがうっ!いや、違わないけど…謝んないで!全然出久くんが悪いとかじゃないの……えと、その……」
心が溶ける時特有の痛みを感じつつ、ひよこちゃんの言葉を待つ。彼女の言葉が欲しいから。
「…ずっとそばに居れるもんだって、思ってたからさ。そんなことって難しいんだろうなって、分かってさ、その……寂しいなって思うのと、それから……」
ひよこちゃんはちょっと下を向いて考えたあと、照れた顔で言葉を続けた。
「願ってるんだ。出久くんが…皆が、これからもちゃんと、笑って居られますようにって。」
今はそれくらいしか出来ないからと、彼女は笑った。
あまり、上手い言葉は出てこなかった。
ただ少し泣きそうになった顔を逸らして、言葉を選ぶ。泣きそうなのがバレないような言葉を。
「僕も……そうだよ。願ってる。」
「…てひひっ。ヒーローだね、お互い!」
そう嘯く彼女を見ると、やっぱり安心した。
肩の力を抜いて大きく深呼吸して。僕とひよこちゃんはもう少しだけ眠れない時間をのんびり過ごした。
