第48章 転がる岩、君に朝が降る
その日の夜。
相変わらず不眠症は続いており、私はいつもの如く共有スペースに残っていた。
時刻は10時半頃。先程みんな部屋に戻って行った。
私はソファに座って足をプラプラさせてぼーっとする。
出久くん大丈夫かなぁ。
なんて。
そんな事思うなんて余計なお世話だけど、でもさっきの言葉がずっと気になって仕方なくて、「大丈夫かな。心配だな。」って言葉でしか表せない。
今ならまだ起きているかもしれない。
会いに行けば話が出来るかもしれない。ていうか出来ると思う。
でも、何を、なんて話そう。
考えながら私はぴょんとソファから降りた。
あんまし夜に男子の棟の方行くのは良くないって禁止されてはいるけど、ちょいちょいって行くくらいならバレないはず。
ちょっぴりルールを破るということに少しだけ緊張しながらエレベーターを待っていると、2階から誰かが降りてくるマークが光った。
「おっ」
ちょっと気まずいと思ってエレベーターの扉からからとととっと離れる。少し遠くからエレベーターを確認していると、扉が開いて誰かが降りてきた。
「あ、ひよこちゃん。」
「出久くんだぁ…!」
降りてきたのは出久くんだった。
相変わらず変なTシャツを着ている。
「あ、えと、どうしたの?」
「眠れなくてさ。下行ったらまたひよこちゃん居るかもって思って。」
「そ、っか……えへへ。私もね、出久くんとお話すぃっ…たいって思っててさ。」
「そっかそっか。じゃあちょうど良かったね。」
少し噛んでしまったのは緊張してしまったのと、嬉しかったので心がいっぱいになっていたからだ。
2人でソファに座った。
少し無言の時間が続く。
言いたいことがあったんだけど。でも。
何を言っても、どう言っても余計で、鬱陶しくて、決意を鈍らせるような言葉になっちゃう気がして。
大丈夫かなぁ、元気かなぁって、ただそれだけの心配なのに。
どんな言葉がいいんだろう。
思ってることを伝えるのってこんなに難しいんだと改めて思う。
「えっとさ。」
「うん。」
言葉を準備する間を、繋ぐ。
出久くんは聞く準備をしてくれた。
「私ね、えっと、悲しいし悔しいし…苦しいよ。……えっとね、それだけ。」