第48章 転がる岩、君に朝が降る
「帰ってきたァァァ!!奴らが帰ってきたァ!!」
寮の玄関を開けるやいなや皆がバッと集まってきた。
皆随分心配してくれていたみたいだ。
「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、ひよこちゃーん!!あれ!いつオン眉になったの!?」
心配してくれる皆に圧倒されて、言葉が上手く出てこない。
心配してくれて嬉しい。嬉しくないわけが無い。
けど、上手く言葉にできなくて。抱きついてくれた透ちゃんの背に手を伸ばしてぎゅうっと力を込めた。
「皆!心配だったのはわかるが!!落ち着こう!!」
そう制してくれたのは天哉くん。
相変わらずちゃんと委員長で、頑張ってくれている感じ、久しぶりに見た感じがした。
「報道で見ただろう。あれだけの事があったんだ。級友であるなら、彼らの心を労り静かに休ませてあげるべきだ。」
相変わらず、優しくて、安心する。
「身体だけでなく……心もすり減ってしまっただろうから……。」
あの夜見た彼の涙や迷い。ふと思い出した。
天哉くん、知っていたんだ。友達だから、見ているんだ。ちゃんと。相変わらず凄い。凄いし優しい。
「飯田くん、飯田くん」
真剣な顔で告げる天哉くんに声を掛けたのは、出久くんだった。
「ありがとう。でも…」
出久くんはひと呼吸おいて、笑顔を作った。
「大丈夫。」
ひと呼吸の間に何を思ったのか、私には分からない。
天哉くんはピタッと止まって彼の顔を見る。
天哉くんが何を思ったのかは、すぐ分かった。
「じゃあいいかい。とっっっっても心配だったんだぞもう俺はもう君たちがもう!!」
そう言って出久くんの肩をガシガシ揺すった。
皆、思い思いの方法で盛大に“心配”してくれた。
少しだけ、私も心配だった。
出久くんのことが。
悲しまなくてもいいのかなって、思った。余計なお世話って分かるけど。
怖かったからテクテク歩いて1人ソファに沈んでいる勝己くんの隣に座った。
「帰ってきたよ。」
「……。」
「あのね……あのさ、悲しいって気持ちって……無くした方がいいのかな。」
「……しるか。」
「笑ってた方がいいのかな。」
「お前はどうなんだよ。」
勝己くんはそう言ってすぐ部屋に戻ってしまった。
明日は仮免の講習らしい。
残された私は、ソファで脚を抱えてボーッと天井を眺めた。口田くんの兎がソファの下をぴょんぴょん跳ね回っている。
