第47章 彼らが暮らした家
結論、私は“エリちゃんの”を取り戻すことは出来なかった。
死者は出なかったものの、治崎さんは“片腕”を失ってしまった。
鋭児郎くんは全身打撲に裂傷が酷くて、環先輩は顔面にヒビ、ファットさんは何ヶ所か骨折してて、先生は5針くらい縫って、エリちゃんはまだ熱が引かずにうなされている。
そんな中私はただ、前髪を失っただけだった。
カッコ悪すぎた。
名誉のキズとして私に残されたのは変な前髪。完全にオン眉になった。
少ししゅんとしながら病院の待合室でぼーっとしていたら、先生がやってきた。そして、言った。
先生の口から出たのは、私の変な前髪のことじゃなかった。スナッチさんのことでも、治崎さんのことでもなかった。
「サー・ナイトアイが、亡くなった。」
「……っぇ」
心臓がぎゅうっと小さくなった気がして、嫌な音を立てて痛くなった。身体に上手く血が回らなくなって、ちょっとの間動けなくなった。
それから、頭には「どうしよう」っていう言葉がぐるぐる回った。出来ることなんて全然ないって分かっているのに。なに、したらいいの?って。
それから、恥ずかしくなった。
そんなこと考えるしかない自分が。ちょっと前まで前髪のことで頭がいっぱいだった自分が。
ふざけてたんだろ、って言われてもおかしくないような、前髪。
一生懸命やったはずなのに、本当に一生懸命だったのか?って、疑ってしまうような、変な“キズ”。
あんなにそばに居たのに。
私が何とかすれば助かったのかも。でも、私にはそれが出来なくて、無意味なことしか。
私は、また。
「私…わたし……なにも…できて、ない。ご、ごめ、ごめんなさい。また…また私は、かっこ悪い、だけで」
「お前たちはやれることをやってくれた。だから、」
「本当に?」
反射的に返してしまった。
自分は全然だったと、思ったから。
「だって私、みんなより全然キズ少ない。私もっとできたのかも。なにも、してない、お荷物だったかも、だって、私何も、」
「したよ。」
焦って泣きそうになっている私に、相澤さんはぽんと優しく撫でるように肩をさすった。
「安藤は、やった。世界はちゃんと変わった。お前が変えた。」
先生は私の振るえている肩を優しくさすりながら、何度もそう言ってくれた。