第47章 彼らが暮らした家
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男が顔をあげると、暗闇の中に少女が立っていた。
男は、写真では何度か見たことのあるその少女を、キツく、厳しく睨みつけた。
「……安藤ひよこか。」
「治崎さん、やっと会えた。」
男はふらりと立ち上がると、手の平を少女の顔面に押し当てた。しかし、男の信じていた"個性"が発動することはなかった。
「っ…。」
少女は少し肩を震わせたあと、言葉をつづけた。
「ここは貴方のココロの世界です。だから、"個性"のことは考えなくていいんです。」
男は舌打ちをして手をおろす。
手の向こうの少女の瞳は、ただまっすぐ男を見据えていた。
「あなたの事が、知りたくてここに来ました。」
「…虫唾が走る。」
「…ごめんなさい。でも、知りたかった。ちゃんと向き合いたいって、思ったんです。玄野さんと、話してそう思った。」
男は、目を合わせようとはしない。
合わせたくなかったから。
「でも、あなたの記憶を見て、私…わた、し…」
「……。」
少女は口をはくはくと動かしたあと唇をきゅっと結んだ。
少女の方も、なんと言えばいいのか分からなかったから。
「…分からなく、なった。」
探して探して、ようやく出た言葉がソレで。
顔は歪んで、怒りや虚しさ、哀しさで溢れていった。
「私、あなたがヒトを殺す瞬間も、傷付ける瞬間も、見ました。見えちゃったんです。」
「…そうか。」
少女は眉をひそめて下を向く。
「それで……私は、許せない、って、おもって、しまって。」
泣きそうな声を出す少女を、男は温度のない瞳でにらみつける。
「…お前、何のためにここに来た。」
「…あなたを……あなたのしようとしたことを、理解したかった。」
必死に、言葉を探した。
「で、も…私は……。」
探して、悩んで、迷って。
理解したいと思ったこと。
ココロを知りたいと思ったこと。
どうにか共に考えたいと思ったこと。
その想いだけは消えなかったこと。
「だから…私は……」
それを伝えたくて言葉を探した。
相手が受け止めてくれるように、願って。
「あなたと話が……したいです。」