第47章 彼らが暮らした家
「そんなこと、してていいのかよヒーロー。」
ひよこの言葉を、彼は鼻で笑った。
「……。」
少し俯いて、それから真っ直ぐ目を見る。
「…分かりません。」
「は?」
「私が、こうしたいだけです。これは私の、勝手です。」
治崎は眉をひそめた。
目の前の子供が、一体何を考えているのか分からなかったから。
「何故、そんな事、」
「私、突入の前に考えてたんです。」
ひよこは真っ直ぐ言う。
あまりにあまっちょろくて、未熟で。
でもただひたすら、真っ直ぐに。
「みんな、幸せになれればいいのにって。」
「……。」
「みんな、です。全員です。その全員には、アナタも、アナタの組も、入ってて、」
「…は?」
「私が勝手に、考えただけです、けど、」
「…そんなこと、本気で出来るとでも思っていたのか?」
治崎が揺さぶるような言葉をかけると、ひよこは困ったように笑った。
「出来るって、願っていたいんです。出来ないとしても、その願いだけは、手放さないでおきたいんです。」
ひよこは、ただ夢を語るだけだった。
ただの理想だ、絵空事だと治崎は嘲笑しようとした。
しかし、そのあまりにも真剣でどこまでも優しく揺れる瞳に、気圧されて動けずにいた。
ヤクザの頭が、ただのちっぽけであまちゃんで迷ってばかりの子供の前に、動けずにいた。
「……戦う時は、本気です。みんな怒ってます。本気で、ぶっ飛ばしてやろうって思ってます。…でも、生きていてほしくないなんて誰も思ってません。」
「……。」
ひよこは話しながら考えていた。
彼が何を思っているのか、どういう人間なのか、
そして、自分は何がしたいのか。
「あとは、あなた方次第だって、分かってるんですけど…どうしても、なんでか、放っておけなくって。」
ひよこは、会話がしたい、とは言ったものの、段々と自分がどうしたいのか分からなくなっていた。
私はこの人が犯した罪を見て、許せないと思った。
でも、彼の孤独も寂しさも見てしまって、少しは分かるって、思ってしまっていて。
でもそれは、
でも、
私は、
でも、
ヒーローは、どうあるべき?
ひよこの迷いに溢れた心の奥にはただ、手を離したくないという思いがあった。なぜそんな思いがあるのか、その気持ちにどんな意味があるのか、まだひよこには分からなかった。