第46章 どんなに強い者も
私は、新たに発現したっぽい"個性"を、まずファットさんに説明した。あの時、誘拐されたとき、入れられていて、今になってようやく発現したらしいと。
「まぁた、難儀な話を…。アマネちゃんまたいろいろ起きてんのかァ…」
「すみません、さっき急に…」
「いや、謝ることやない。」
ファットさんはスレンダーになった体で頭をガシガシかいていた。
「使えるかも、しれないんです。この"個性"。誰かを幸せに…誰かの願いを叶えることができるかも…しれないんです。」
「その誰かって、"敵"もか?」
「……。」
私は黙って下を向いた。
それから、小さくうなずくと、ファットさんの手がポンと頭にのった。
「ほんと、どんどんカインドネスさんに似てきとるわ。」
「お…とうさん…?しってるの…?」
顔をあげてファットさんを見ると、優しくて、でも哀しいような、悔しいような顔をしていた。
「もちろん。恩人やから。」
「……」
唇を噛んだ。涙が出そうで。
嬉しい気持ちと、そんなに素敵なヒーローだったお父さんを、私が、という気持ち。
「私、"みんな"で幸せに、笑顔になりたくて。」
「"みんな"…な。…アマネちゃんはほんとにあまちゃんやなぁ。」
「っ…でも、私、」
玄野さんにも、言われた言葉。
「私、できるかできないかは、やってから決めたい。」
「…。」
「…。」
「…ん。そっか。やっぱりアマネちゃんは度胸があるな。」
ファットさんはバシっと私の背中を叩いた。
痛かったけど、気合が入った。
「分かった!じゃあやってみ!」
「…はいっ、やってみます!!」
「絶対ケガはしない、って、条件付きでな!」
ファットさんはそう言って私を送り出した。
護送車には、サンドヒーロースナッチさんも乗っていくらしく、そんなに強い人が一緒なら大丈夫だろうと警察の方々も妥協してくれたっぽい。
「スナッチさん。よろしくお願いします!」
「…キミが同行するのはあまり賛成ではないのだが…」
「よろしくお願いします!!」
ゴリ押した。
ゴリ押したら、渋々承諾してくれた。
スナッチさんは前を行く車の助手席に。
私は治崎さんの乗っている車に乗った。
救急隊の人がふたり。
その人たちに治崎さんが悪いことしないようにの監視の為、というていで私がひとり。
はじめてこの時、彼の顔を見た。
気がした。
