第46章 どんなに強い者も
車が、動き出した。
薄暗い照明のもと、彼はただずっと虚空を見つめていた。
「あの、」
声をかけても、何の反応も見せてくれなくて。
それでも私は、言葉をつづけた。
「特別に、乗せてもらったんです。ある人の、お願いを叶えたくて。」
救急隊の人たちは、黙ってこちらを見ていた。
ちょっと、恥ずかしかった。
「私の"個性"、使っていいですか?」
「……。」
「無言は肯定、ですよね。」
多少強引にでも進めさせてもらいます、と私は返答をしてくれない治崎さんを見つめた。
ひとつ、深呼吸をした。
彼が言っていたあの"個性"の発動条件は、
『使い方、と言ってもそこまで難しいわけじゃない。ただ、相手のことを強く知りたいと願って、』
何故こんなことをしたのか、知りたい。
あの人が言っていたことの本当を、知りたい。
『身体に触れるかもしくは、目を合わせてみて。』
私は強く願いながら、彼の身体にゆっくり手を伸ばした。治崎さんがピクッと動いた気がしたけれど、気にしていられなかった。
「ごめんなさい、」
指の先をちょっと触れただけだった。
バチバチバチっと火花が飛んで、
いろんな思いが流れ込んできて、
それは信じられないほど痛くて、苦しくて
そのまま私は意識を手放した。
『人のココロに触れるんだからね。めちゃくちゃキツいって覚悟した方がいいよ。痛いし苦しいだろうけど、ココロに触れるって、そういう事だから。』
意識を失う直前に、私はそんな言葉を思い出した。
ココロって、重たくて大変なんだって、思い出した。